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青森地方裁判所 昭和63年(レ)14号 判決 1989年7月11日

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人浅井巌の主位的請求のうち、別紙物件目録記載(一)記載の土地のうち同記載(二)の部分について所有権移転登記手続を求める部分を棄却する。

被控訴人は控訴人らに対し、別紙物件目録記載(一)の土地の各一六七〇分の二三一の持分につき、それぞれ真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)

(一) 被控訴人は、

(1) 控訴人浅井巌(以下「控訴人巌」という。)に対し、主位的に、別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)のうち同記載(二)の部分につき、予備的に、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、

(2) 控訴人浅井邦彦(以下「控訴人邦彦」という。)に対し、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、

それぞれ真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  (予備的請求)

(一) 被控訴人は、

(1) 控訴人浅井巌に対し、主位的に、本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の部分につき、予備的に、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、

(2) 控訴人邦彦に対し、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、

それぞれ農業委員会に対し、農地法五条所定の所有権移転許可申請手続をし、右許可があったときは、控訴人らに対し、贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

4  主文第四項同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件土地は、もと浅井石蔵(以下「石蔵」という。)の所有であったところ、同人は、昭和四六年一一月一四日死亡し、その相続人は、同人と亡木村ツナとの子である控訴人巌、石蔵の妻である浅井ハギ(以下「ハギ」という。)いずれも石蔵とハギとの子である被控訴人、満洲江、控訴人邦彦、蔦江、尚敏、照美、尚美、すみえ、自子の一一名である。

2(一)  石蔵の遺産には、本件土地のほか、別紙物件目録記載(三)の土地及び同記載(四)の居宅並びにイカ釣漁船一隻等があり、また一定の債務もあったが、控訴人ら、被控訴人及びハギは、昭和五八年八月二一日石蔵の右遺産の分割について協議し、右当事者間に次のとおり合意(以下「本件合意」という。)が成立した。

(1) 控訴人らは、それぞれ、本件土地から面積七〇坪(約二三一平方メートル)の部分を随意に選択して取得する。

(2) 控訴人らの右取得する部分を除く、その余の石蔵の遺産は、ハギの老後の面倒をみて、浅井家を継ぐことを条件として、被控訴人が取得する。

(3) 本件土地の登記手続については、いったんその全部について、被控訴人が単独で所有権移転登記を経由することとし、被控訴人が同土地から控訴人らの右取得する部分を分筆して、その部分につきそれぞれ控訴人らに所有権移転登記をする。

(二)  仮に、そうでないとしても、控訴人ら、被控訴人及びハギとの間において、右同日、控訴人らが、それぞれ本件土地の七〇坪分(一六七〇分の二三一)の持分を取得し、その余は、右(一)(2)及び(3)のとおりとする旨の合意が成立した。

3  被控訴人及びハギは、遅くとも昭和五八年一二月一二日までに、右当事者を除く他の相続人から、本件土地の全部につき、被控訴人が単独で所有権移転登記を経由するために必要な相続分不存在証明書と印鑑証明書の交付を受けるなどして、本件合意についての了解を取りつけたが、これによって石蔵の相続人間に、本件合意と同一の遺産分割に関する協議が成立した。

4  本件合意及び右遺産分割協議が成立するに至った事情は以下のとおりである。

石蔵の死後、浅井家の実権は、ハギと被控訴人が握っていたが、被控訴人は、石蔵が死亡した翌年である昭和四七年から、前記イカ釣漁船を独占的に使用して漁業に従事し、年間三〇〇万円なしい五〇〇万円を超える水揚げを得て、石蔵の前記債務を返済し、そのほかにも利益をあげていた。更に被控訴人は、右イカ釣漁船の船主となったため、昭和五五年一二月泊漁業協同組合から、むつ小川原開発に関する漁業補償金として一二六一万五四四一円の金員の支払を受けており、すでに本件合意の当時、石蔵の遺産から十分な利益を得ていた。

一方石蔵の死後、ハギは、生活保護や石蔵の恩給等によって一人で暮らしており、また控訴人らは、なんら石蔵の遺産の分配にはあずからずにいた。

そこで、石蔵の遺産から利益を得てきた被控訴人が、浅井家の跡取りとして、ハギの老後の面倒をみ、控訴人らに本件土地の一部を取得させ、その代わりに、その余の石蔵の遺産全部を相続することになったものであり、他の相続人もこのような事情を知悉していたので、ハギらの申入れを了解したものである。

5(一)  仮に、右遺産分割協議が成立していないとしても、被控訴人は、昭和五八年八月二一日控訴人らに対し、被控訴人が、本件土地の全部につき、単独で所有権移転登記を経由した後に、それぞれ控訴人が本件土地から随意に選択した面積七〇坪の部分を贈与する旨の意思表示をした。

(二)  仮に、そうでないとしても、被控訴人は、右同日控訴人らに対し、被控訴人が、本件土地の全部につき、単独で所有権移転登記を経由した後に、それぞれ本件土地の七〇坪分(一六七〇分の二三一)の持分を贈与する旨の意思表示をした。

6  被控訴人は、昭和五八年一二月一二日本件土地の全部につき、単独で自己名義に昭和四六年一一月一四日相続を原因とする所有権移転登記を経由した。

7  控訴人巌は、昭和六一年三月六日右遺産分割協議ないし贈与契約に基づき自己が取得すべき範囲として、本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の部分を選択する旨の意思表示をした。

8  よって、被控訴人に対し、①主位的請求として、前記遺産分割協議に基づき、控訴人巌は、主位的に本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の部分につき、予備的に本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、控訴人邦彦は、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、それぞれ真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを、②予備的請求として、前記贈与の意思表示により、控訴人浅井巌は、主位的に本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の部分につき、予備的に本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、控訴人邦彦に対し、本件土地の一六七〇分の二三一の持分につき、それぞれ農業委員会に対し、農地法五条所定の所有権移転許可申請手続をし、右許可があったときは、控訴人らに対し、贈与を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)、(二)の各事実中、石蔵に控訴人ら主張のような遺産及び債務があったこと、控訴人ら、被控訴人及びハギと間に昭和五八年八月二一日、被控訴人が本件土地の全部につき、単独で所有権移転登記を経由するとの合意が成立したこと、その際被控訴人から控訴人邦彦に対し、本件土地のうち面積七〇坪の部分を分割することを約したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実中、被控訴人及びハギが、控訴人らを除く他の相続人から、本件土地の全部について、被控訴人が単独で所有権移転登記を経由することの了解を取りつけたことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4の事実中、被控訴人が、控訴人ら主張のイカ釣漁船を使用して漁業に従事し、その利益等から石蔵の債務を返済したこと、昭和五五年一二月泊漁業協同組合から、むつ小川原開発に関する漁業補償金として一二六一万五四四一円の金員の支払を受けたこと及び石蔵の死後、ハギが一人暮らしていたことは認め、その余の事実は否認する。

5  同5(一)、(二)の事実は否認する。

6  同6、7の事実は認める。

7  被控訴人の主張

(一) 石蔵には、控訴人ら主張のイカ釣漁船の購入の際の借入金のほか、むつ信用組合に対する債務など多額の債務があったが、被控訴人は、浅井家の跡取りとして、石蔵の死亡前の昭和四四年ころから昭和五一年にかけて、これらの債務を独力ですべて弁済しており、また石蔵の死後一人暮らしとなったハギの面倒も被控訴人がみてきた。

これらの事情から、本件土地については、その全部について、被控訴人が単独で取得することになったものである。

(二) 控訴人邦彦については、石蔵が、生前同控訴人から、三〇万円を借りていたため、当時から、将来同人が家を建てるときには、そのための土地をやるという話があった。

このため、被控訴人は、昭和五八年八月二一日控訴人邦彦に対し、被控訴人が本件土地を取得してから、同控訴人に対し、そのうち面積七〇坪の部分を分けると、約したことはある。

しかし、控訴人巌については、このような事情はなく、また同人が石蔵の右負債の整理に協力したこともなかったのであるから、被控訴人が、同控訴人に本件土地を分けるなどというはずがない。

そして控訴人邦彦についても、このときには分ける土地の範囲も特定されていないし、ましてや同控訴人が随意面積七〇坪の土地を選択してよいなどという合意は成立していない。本件土地を共有にするという合意もない。

結局石蔵の相続人らの間では、被控訴人が、本件土地を取得するという合意が成立しただけであり、控訴人邦彦に対しては、被控訴人が本件土地を単独で取得し、所有権移転登記を経由してから、被控訴人と控訴人邦彦との間で再度協議が成立すれば、面積七〇坪の土地を分けることになるにすぎない。

三  抗弁

被控訴人が、控訴人邦彦に対し、本件土地のうち面積七〇坪の部分を分ける、と約束したことは、錯誤に基づくもので無効である。

すなわち、前記のとおり、被控訴人が、右約束をするに至ったのは、控訴人邦彦が石蔵に対し、三〇万円を貸したままになっていたことに基づくものであるが、実際には、控訴人邦彦は、昭和五八年八月二一日の協議に先立って、ハギから二〇万円を借り受けており、しかも石蔵に対する三〇万円の貸金と右二〇万円の貸金を帳消しにすると述べ、ハギに二〇万円を返していなかった。

被控訴人は、右協議の当時、このような事情を知らなかったが、これを知っていれば、当然控訴人邦彦に、本件土地のうち面積七〇坪の部分を分けると約束することはなかった。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  控訴人ら主張の遺産分割協議の成否について判断する。

1  請求原因2(一)、(二)の各事実中、石蔵に控訴人ら主張のような遺産及び債務があったこと、控訴人ら、被控訴人及びハギとの間に、昭和五八年八月二一日、被控訴人が本件土地の全部につき、単独で所有権移転登記を経由するとの合意が成立したこと、その際被控訴人が控訴人邦彦に対し、本件土地のうち面積七〇坪の部分を分割すると約したこと、請求原因3の事実中、被控訴人及びハギが、被控訴人ら以外の他の相続人から、本件土地の全部につき、被控訴人が単独で所有権移転登記を経由することの了解を取りつけたこと、請求原因4の事実中、被控訴人が控訴人ら主張のイカ釣漁船を使用して漁業に従事し、その利益等から石蔵の債務を返済し、昭和五五年一二月泊漁業協同組合から、むつ小川原開発に関する漁業補償金として一二六一万五四四一円の金員の支払を受けたこと、石蔵の死後、ハギが一人で暮らしていたこと並びに請求原因6の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  前示及び右争いのない事実、<書証番号略>、原審における証人赤石松一の証言及び<書証番号略>、原審における被控訴人本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び<書証番号略>、原審における証人浅井ハギ(後記措信しない部分を除く。)及び証人浅井トキの各証言、原審における控訴人巌(後記措信しない部分を除く。)及び控訴人邦彦の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  石蔵は、木村ツナとの間に控訴人巌をもうけ、その後ハギと婚姻し、同人との間に、被控訴人、満洲江、九州男、控訴人邦彦、蔦江、尚敏、照美、尚美、すみえ、自子をもうけた。

(二)  石蔵は、小型漁船を所有し、当初被控訴人や控訴人邦彦に手伝いをさせて漁業を営んでいたが、控訴人邦彦が独立して漁業を営むようになった後は、被控訴人と共に、あるいは単独で漁業を営んでいた。

(三)  石蔵は、昭和三五、六年ころ以降健康を害し、昭和四四年ころ以降には、通院や入院をするようになった。そのため、石蔵が昭和四〇年ころ購入したイカ釣漁船などの漁具は、いわゆる浅井家の跡取りの地位にあった被控訴人がこれを独占的に使用するようになり、被控訴人は、昭和四六年七月九日には、石蔵の泊漁業協同組合に対する右漁船購入資金の借入金残債務九〇万九六〇〇円を自己の借入名義に書き換えると同時に、右漁船の所有名義も自己に書き換え、右漁船の維持補修費用等を負担するなどし、このころから、浅井家の漁業は、被控訴人が石蔵に代わって営むようになった。

一方病気療養中の世話は、被控訴人、満洲江、尚敏、照美及び尚美らが共同で行ない、また控訴人邦彦は、石蔵に三〇万円を貸してこれを援助した。

(四)  石蔵は、昭和四六年一一月一四日死亡し、その相続人は、ハギ、被控訴人、満洲江、控訴人邦彦、蔦江、尚敏、照美、尚美、すみえ、自子、控訴人巌であったが、その遺産には、本件土地、別紙物件目録記載(三)、(四)の土地及び居宅並びに前記イカ釣漁船等があり、一方債務としては、むつ信用組合に対し一定の借金があった。右債務は、ハギ及び被控訴人らが、昭和五一年ころこれを完済した。

石蔵の死後、ハギは、市場等で働いて労賃を得るほか、石蔵の恩給や年金による収入あるいは被控訴人からの援助等にたよって一人暮らしていた。

前記イカ釣漁船等の船主となった被控訴人は昭和五五年一二月ころ、むつ小川原開発に関する漁業補償金一二六一万五四四一円の支払を受けたが、その利益を他の相続人には分配しなかった。

一方石蔵の遺産については、分割協議はされず、控訴人らは、これから格別の取得をしなかった。

(五)  本件土地については、石蔵生前、その一部を石蔵が控訴人邦彦に贈与するとの話があったことから、控訴人邦彦は、同土地の上に自宅を建築したいなどと考え、昭和五八年八月二一日、控訴人巌と連れ立って、ハギ宅を訪れ、同所において、ハギ及び被控訴人に対し、本件土地の遺産分割の話合いを申し込んだ。

その結果、右当事者間に、①石蔵の遺産のうち、本件土地については、控訴人らがそれぞれ面積七〇坪分の部分を取得する、②控訴人らが取得する右部分を除く石蔵の遺産は、浅井家の跡取りである被控訴人が取得する、③本件土地の登記については、いったんその全部について、被控訴人が単独で所有権移転登記を経由し、その後被控訴人が控訴人らに対し、各面積七〇坪の部分を分筆して、その部分につき所有権移転登記手続をする、④控訴人らが取得する部分の具体的範囲は、被控訴人が所有権移転登記を経由した後、本件土地を整地してから、控訴人らと被控訴人とで協議して決定することとし、整地及び登記費用は右三者で分担する、との合意が成立した。

また、他の相続人に対しては、浅井家の中心的存在であった被控訴人が同意を取り付けることとなった。

(六)  その後被控訴人は、右当事者を除く石蔵の相続人全員に対し、本件土地その他の石蔵の遺産の処分についての同意を求め、これらの相続人は、相続分が存在しない旨の証明書ないしこれと同趣旨の書面と印鑑証明書とを交付して、その処分及び登記手続を被控訴人に一任した。被控訴人は、更に控訴人ら及びハギからも同様に登記手続に必要な書類の交付を受け、これを使用して、昭和五八年一二月一二日本件土地及び別紙物件目録記載(三)の土地の全部について、昭和四六年一一月一四日相続を原因とする自己名義の所有権移転登記を経由した。

3(一)  これに対し、原審における控訴人巌本人の供述中には、昭和五八年八月二一日の話合いによって、控訴人らが、本件土地のうち取得する部分を任意に選択してよいとの合意が成立したとの部分があるが、右供述部分は、原審における控訴人邦彦本人の反対趣旨の供述部分に照らし、直ちに措信することができない。

(二)  また、原審における被控訴人本人の供述中には、石蔵には、泊漁業協同組合やむつ信用組合に対する多額の債務があったが、被控訴人は、浅井家の跡取りとして、これらの債務を独力ですべて弁済し、また石蔵の死後一人暮らしとなったハギの面倒は被控訴人がみてきており、これらの事情から、本件土地については、その全部について、被控訴人が単独で取得することになったものである、また控訴人邦彦には、石蔵に対し三〇万円の貸金があったため、本件土地のうち面積七〇坪分の部分を分けるとの約束はしたが、控訴人巌にはそのような事情がなかったので、本件土地を分ける約束はしていないとの部分がある。

しかしながら、右供述部分は被控訴人が、石蔵のイカ釣漁船等を独占的に使用するようになったことは前示のとおりであるから、その購入代金に充てるためになされた泊漁業協同組合に対する借入金の残金を、被控訴人が弁済したことをもって特別の負担とみることはできないこと、石蔵の債務を弁済したとはいっても、被控訴人は、実質的に石蔵の遺産から、これを遙かに上回る利得をしており、一方控訴人ほかの相続人は、遺産を取得していないこと、昭和五八年八月二一日の話合いの際に、控訴人邦彦の石蔵に対する貸金について特に問題となった形跡がないこと並びに反対趣旨の原審における控訴人巌本人尋問の結果に照らし直ちに措信することができない。

(三)  なお、原審における証人浅井ハギの証言中、前示認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措置することができず、そして、他に右認定に反する証拠はない。

4  右認定事実によれば、遅くとも昭和五八年一二月一二日までには、石蔵の相続人間に、①石蔵の遺産のうち本件土地については、これを控訴人らと被控訴人との共有とし(控訴人らの持分は、各面積七〇坪(約二三一平方メートル)分に相当する、少なくとも一六七〇分の二三一、②その余の遺産(前記漁業補償金及び前記各債務を含む。)は被控訴人が取得する、③本件土地については、いったん被控訴人がその全部について単独で所有権移転登記を経由し、整地後、控訴人ら及び被控訴人との間で共有物分割の協議を行う、との遺産分割協議が成立したものとみるのが相当である。

三  被控訴人の抗弁について検討する。

被控訴人は、控訴人邦彦に本件土地のうち面積七〇坪分の部分を分けると約束したのは、控訴人邦彦が石蔵に対し、三〇万円を貸したままになっていたことに基づくものであるが、実際には、控訴人邦彦は、昭和五八年八月二一日の協議に先立って、ハギから二〇万円を借りて受けており、しかも石蔵に対する三〇万円の貸金と右二〇万円の貸金を帳消しにすると述べ、ハギに二〇万円を返していなかったから、右約束は錯誤により無効であると主張し、原審における被控訴人本人の供述中には、これに副う部分がある。

しかしながら、右供述部分は、前示認定のとおり、右協議の当日控訴人邦彦の石蔵に対する貸金が問題になった形跡はないこと、このような貸借関係の存在しなかった控訴人巌に対しても土地を分けると約束したこと並びに他にこれを裏付けるに足りる証拠がないことから、直ちにこれを採用することができず、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、右抗弁は採用することができない。

四  以上によれば、控訴人巌の主位的請求のうち、本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の部分について、所有権移転登記手続を求める部分は、理由がなく、棄却すべきであるが、控訴人らの主位的請求のうち、遺産分割協議に基づき、本件土地の各一六七〇分の二三一の持分について、それぞれ所有権移転登記手続を求める部分は理由があるから認容すべきである。

よって、これと結論を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口忍 裁判官 山田敏彦 裁判官 夏目明德)

別紙物件目録

(一) 所在 青森県上北郡六ヶ所村大字泊字焼山

地番 七五三番一

地目 畑

面積 一六七〇平方メートル

(二) 右土地のうち別紙図面表示イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分

面積 232.46平方メートル

(三) 所在 青森県上北郡六ヶ所村大字泊字焼山

地番 五二四番三

地目 原野

面積 三三七平方メートル

(四) 所在 青森県上北郡六ヶ所村大字泊字焼山五二四番地三

家屋番号 五二四番三

種類 居宅

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 54.65平方メートル

別図<省略>

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